白馬鑓温泉(2,100m)2026年5月5日~5月6日
●メンバーCL:ナガ、 SL:gigi、 食当:まこ、梅 配車:はしお、HP:はっすぃ
●コースタイム
5/5 8:00猿倉荘(1,236m)→11:10小日向のコル(1,827m)→13:30白馬鑓温泉
5/6 8:00白馬鑓温泉(2,100m)→10:00小日向のコル(1,827m)→10:50猿倉荘
5月4日(金)
19時、勝川駅を出発。向かう先は、残雪期の白馬鑓温泉。安曇野へ近づく頃には小雨になっていた。メンバー間で共有していたのは、「夏道は消えている」「沢沿いルートはスノーブリッジ」「雪崩リスクあり」という情報。まだ身体は街の感覚を残しているのに、気持ちだけが少しずつ山へ入っていく。23時半、白馬オリンピック大橋駐車場で仮眠を取る。眠ったはずなのに、朝方は冷え込みで何度か目が覚めた。
5月5日(土)
夜中には雨が止み、静かな朝だった。7時、八方第5駐車場から予約していたタクシーへ乗り込む。運転手さんから聞く最新の雪崩情報や登山者の様子。こうした“現場の声”は、山では何より心強い。7時半、猿倉荘到着。皆でビーコンチェックを済ませ、8時に歩き始める。半袖の人。フリースの人。それぞれのレイヤリングでスタートしたが、歩き出せばすぐ暑くなった。
陽射しはすでに強かった。風はなく、雪の照り返しが静かに体力を奪っていく。白い景色の中にいるのに、額からは汗が流れていた。歩き始めて2時間、ブッシュ帯を抜ける。木々の隙間から白い斜面が現れたところでアイゼン装着。雪を噛む金属音が、静かな山に響く。
11時、小日向(おびなた)のコル。「エビスビールの売り子がいるらしい」そんな噂を信じた大人たちが、少し真面目に辺りを探したが居なかった。コルからの下り。先行パーティのトレースを追えば大きく下る。でも、できるだけ高度を落としたくなくて、雪面を横切るラインを選んだ。雪の斜面を慎重にアイゼンを効かせながら進む。だが、抜けた先は思った以上に切れ落ちていた。一度立ち止まり、地形を見直す。少し下り、安全に抜けられるラインを探す。すると丁度その先で、先行していたパーティのすぐ脇へ出た。結果的にはかなり効率の良いショートカットになっていた。
小日向のコルから240m高度をさげ、400mの登り返しが待っていた。重くなった脚を運びながら顔をあげると、遠くに温泉の湯けむりが揺れていた。ようやく着く——そう思った足元には、雪に隠されたスノーブリッジがあった。踏み抜き穴の底は真っ黒な空洞で、少し背筋が冷えた。下山では迷わず巻こう——皆の意見が一致した。
13時半。白馬鑓温泉到着。6人用テントを張れる適所は見つからなかった。「ここならいけるか?」そう思ってテントを仮置きしてみる。しかし、六角形の角がきれいに空中に浮いていた。そこで空中に浮いた部分には周囲の雪をかき集め、一畳ほどの雪の基礎をつくった。何もないところに皆で泊まれる地面を作っていく作業は、どこか秘密基地づくりのようだった。
15時半、待望の温泉へ。雪の上を歩き、登山靴で湯船へ向かう。サンダルでも行けそうだったが、安全面では登山靴が正解だった。湯は熱かった。熱すぎるくらいだった。だから湯船のまわりに積もった雪をスコップですくい、湯の中へ放り込んで雪で温度を調整した。
キンキンに冷えたビール片手に山並みを眺めていると、別パーティの登山者がこちらを見てぽつり。「…ここガンジス川じゃね?」湯けむりの中、貫禄あるgigiが無言で浸かる姿は、確かに少し修行感があった。
夜には“ピッツェリアマコ”が開店した。ソーセージ、はちみつチーズ、コーンチーズのピザ。さらにキノコベーコンパスタ。雪山の真ん中とは思えない食卓だった。気温はマイナス1度。風はなく、夜は驚くほど穏やかだった。
5月6日(日)
4時、起床して朝風呂へ向かう。ただし問題発生。水着が凍っていた。バリバリになった海パンを温泉で溶かしながら履く。人生には、知らなかった朝がまだある。4時45分、湯船から日の出を見る。空がゆっくり色を変え、黒かった山に輪郭が戻っていく。「あぁ、これはまた来るな」自然とそう思った。
8時には下山を開始した。小日向のコルで電波が入りタクシーを予約する。文明が少し戻ってくる。ナガちゃんから「ルートファインディング、やってみる?」と提案があった。迷わないためじゃない。迷った時は立ち止まって考えられるように。そして踏み跡の薄い斜面に目を向ける。地図を見て、地形を見て、正解のない山の中で、通れそうなラインを探した。
11時、猿倉荘到着。今シーズンの冬山は今日で幕を閉じた。ピークは踏んでいない。けれど、たぶんこういう山行の方が、ずっと記憶に残る。雪。温泉。仲間。少しの緊張とかなりの幸福。残雪期の白馬鑓温泉。またきっと、凍った海パンを溶かしに行く。
以上